ロボット手術・がんゲノム医療
ロボット手術
当院では保険診療でロボット手術を提供しています
<ロボット手術が登場した背景>
外科手術は開腹手術が従来から行われており、現在でも手術の基本です。術者が病変を触りながら行うため取り回しが容易である一方で、細かい操作が困難で、患者さんに大きな創を残してしまいます。
近年高齢化が進み、負担の少ない低侵襲手術が求められるようになってきました。そこで登場したのが腹腔鏡手術です。腹腔鏡手術は小さな創で開腹手術と同じ範囲の切除を行うもので、患者さんの痛みが少なく回復がはやいこと、出血量が少ないこと、早く退院できることが分かっています。
しかし、腹腔鏡にも弱点があります。自分の目となるカメラを助手の医師がコントロールするため、自分が見たいところが見えないことがあります。また、真っ直ぐの棒のようなデバイスを用いて手術するため、からだの奥に行くに従ってコントロールが困難になり、その結果がんを取りこぼしたり、まわりの神経などを傷つけやすくなります。
このような腹腔鏡の弱点を補うべく登場したのがロボット手術です。
<ロボット手術の優れた点>
当院ではダヴィンチXiという最新型のロボットを導入しています。
ロボット手術といっても自動で手術が行われるわけではなく、人間の医師が操縦します。医師は離れたコンソールに座って手を動かし、それが光ファイバーを通じてダヴィンチで再現されます。
ダヴィンチでは、ロボットが把持するカメラを術者が操縦するため、ぶれずに思ったところを見ることができます。映像は3Dで、まるで体の中に入り込んだように立体的に見えます。また、ロボットの腕には関節があり、手振れ補正もついているため、体の中に小さな手を入れて手術しているように細かな作業が可能となります。
これにより、がんを取りこぼさず、なおかつ、まわりの神経などを傷つけたり出血させたりせずに手術を行うことが期待できます。
<当院で行っているロボット手術>
もともと前立腺がんに保険適応されていたロボット手術ですが、2018年に他の領域の術式も保険適応となりました。
ただし、初めから保険で治療を行うことはできません。一定の手術件数を安全に行ってから保険手術適応を取得できます。
当院では2019年2月にダヴィンチXiを導入し、2019年内に外科・消化器外科(胃がん、直腸がん)、婦人科、泌尿器科の4領域、2023年には呼吸器外科で保険手術適応を取得しました。
当院で行っている内視鏡手術用支援機器(ロボット)を用いる対象となる手術 |
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腹腔鏡下胃切除術 単純切除術 |
腹腔鏡下胃切除術 悪性腫瘍手術 |
腹腔鏡下噴門側胃切除術 単純切除術 |
腹腔鏡下噴門側胃切除術 悪性腫瘍手術 |
腹腔鏡下胃全摘術 単純全摘術 |
腹腔鏡下胃全摘術 悪性腫瘍手術 |
腹腔鏡下直腸切除・切断術(切除術) |
腹腔鏡下直腸切除・切断術(低位前方切除術) |
腹腔鏡下直腸切除・切断術(切断術) |
腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術 |
腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術 |
腹腔鏡下腎悪性腫瘍手術 |
腹腔鏡下膣式子宮全摘術 |
腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がんに限る) |
胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術(区域切除) |
胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術(肺葉切除又は1肺葉を超えるもの) |
困難な手術では東京医科歯科大学や東京大学、国立がんセンターなどと連携をとって、安全に手術を行うようにしています。
ダヴィンチを用いることで、がんをしっかり治しつつ、術後の後遺症を少なくするという手術の理想にまた一歩近づいたと考えています。
<実績>
2023年1月~12月の件数 | これまでの合計件数 | |
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胃 | 36件 | 116件 |
直腸・結腸 | 77件 | 189件 |
前立腺 | 49件 | 186件 |
腎がん | 19件 | 22件 |
子宮全摘・子宮体がん | 50件 | 157件 |
肺 | 9件 | 9件 |
総計 | 240件 | 676件 |
胃がん
外科・消化器外科部長 井ノ口 幹人
胃がんのロボット支援下胃切除術を開始して5年が経ちます。
患者さんにとっての利点は ①傷が小さく、術後の痛みが少ない、②術後の合併症の減少です。
2024年3月まで計124例に行いました。術式の内訳は下記の図のごとくですが幽門側切除術が79例(63%)、噴門側胃切除術が29例(23%)、胃全摘術が15例(12%)、胃局所切除1例(1%)でした。術後に外科的な処置が必要となる合併症があったのは3名(2%)でした。全国平均は約5%で当院では安全に手術できていると言えます。最高齢は91歳の患者さんで、80歳以上の高齢者の方も多いのですが同様に安全に行えています。
ロボット手術の内容
ロボット手術を施行した患者さんの年齢
大腸がん(直腸がん・結腸がん)
外科・消化器外科副部長 増田 大機
ロボット手術によって局所再発、術後合併症の減少が期待できます
2019年に大腸がんに対するロボット手術(da Vinci Xi)を開始いたしました。現在(2024年6月時点)まで200人以上の大腸がん患者様にロボット手術を提供して参りました。
大腸がんの中でも直腸がんは骨盤の奥深くに位置するがんで、とても難易度の高い手術です。がんを無事切除できたとしても、患者様が手術後の排便障害や排尿障害に悩まされては治療としては不十分です。また人工肛門や局所再発といった問題は、患者様のQOL(生活の質)の低下や生命予後に大きな影響を与えます。直腸がんに対するロボット手術は、術後の後遺症や局所再発を減らすことが期待できます。また、結腸がんに対してもロボット手術が保険適応となっており、現在ではすべての大腸がん患者さんにロボット手術を受けていただくことが可能となっております。
現在(2024年6月時点)当院に手術支援ロボットは1台しかありませんが、 “ロボット手術を受けるために数ヶ月待つ”などということがないよう体制を整えております。引き続き、安心・安全で、血の通ったロボット手術を皆様に提供して参ります。
ロボット手術のメリット(従来の開腹手術、腹腔鏡手術と比較して);
①傷が小さく術後の痛みが少ない。
②出血が少なく、体への負担が少ない。
③骨盤深部のがんを取り残すことが少なくなり、局所再発しづらくなる。
④神経損傷が減少し、術後の排便機能、排尿機能、性機能などが温存される。
一般的に言われるロボット手術のデメリット;
①コストがかかる。→すべての大腸がんでロボット手術が保険適応となっております。患者様負担は腹腔鏡手術と変わりませんのでご安心ください。
②手術時間が腹腔鏡手術より長い。→当院の大腸診療チームには、日本ロボット外科学会認定手術プロクター(ロボット手術指導医)が1名、日本内視鏡外科学会が定める技術認定医が4名在籍しております。そのため国内の多くの施設とは異なり、手術時間は従来の腹腔鏡手術と変わりません。
患者様やご家族様に余分な負担・心配をおかけせず、ロボット手術のメリットのみを享受していただくことが可能です。
【図】ロボット大腸がん手術件数の推移(累計)
子宮全摘・子宮体がん
副院長兼産婦人科部長 梅澤 聡
産婦人科副部長 髙野 みずき
ロボット支援下手術は鉗子の繊細な動きと人間を超えた広い可動域で、より緻密で傷や痛みの少ない手術を可能としました。
婦人科領域では2018年より良性子宮腫瘍、子宮体癌手術に保険収載され、現在では全外科手術で普及しております。
当院婦人科では2019年3月から良性、悪性ロボット支援下手術を導入し開始4年で合計症例数は154症例と、ここ1年で倍増致しました。
良性子宮腫瘍の重量が500g超症例が一般化し、また悪性腫瘍症例ではより困難な手術にロボット支援下手術を導入しております。
患者さんにとって低侵襲かつ高い緻密な手術であるロボット手術を皆様に提供させて頂きますので、お気軽に担当医にご希望をお伝えください。
前立腺がん・腎がん・膀胱がん
泌尿器科部長 山田 幸央
泌尿器科では、2019年5月からロボット支援前立腺全摘除術を開始し、2022年2月には100例を超えました。2022年10月には腎部分切除術、2023年11月には膀胱全摘除術を開始しました。膀胱全摘の際は、回腸導管もロボットで作成しております(体腔内回腸導管造設術ICUD)。件数は増加しており、2023年10月には総数が200例を超えました。
図 ロボット支援手術件数の推移
肺悪性腫瘍・肺腫瘍・縦隔腫瘍
呼吸器外科部長 籠橋 千尋
呼吸器外科では2023年からロボット支援下手術を開始しました。現在、肺悪性腫瘍・肺腫瘍・縦隔腫瘍に対して、ロボット支援下手術は保険適応となっております。人間の手首のような多関節の鉗子を用いて、通常の胸腔鏡の手術や開胸手術では難しいような角度から、の繊細な操作が可能であるのが最大の特徴です。リンパ節郭清や縦隔腫瘍などの深部の操作が従来より格段にやり易くなりました。
ロボット支援下手術、胸腔鏡下手術、開胸手術を、個々の患者さんの腫瘍の状態に応じて選択しております。ご希望や疑問点などはぜひ外来担当医にご相談ください。
がんゲノム医療
武蔵野赤十字病院は、「エキスパートパネル実施可能がんゲノム医療連携病院」に指定されています。
詳細につきましては病院ホームページをご覧ください。